導入事例

CANネットワークの深い洞察とプロフェッショナルな思考過程。Jeep Commanderエンジン不始動診断の全記録

2026年8月3日

■ お話をお聞きしたお客様

有限会社須藤ヂャイアント商会 代表取締役 須藤正樹様

CANネットワークの深い洞察とプロフェッショナルな思考過程。Jeep Commanderエンジン不始動診断の全記録
以前ご紹介した事例では、その卓越した診断スキルと論理的なアプローチに大きな反響が寄せられた、須藤ヂャイアント商会の須藤様にこのたび再度ご登場いただきました。本記事では、難解なJeep Commanderのエンジン不始動トラブルにおける分析や、不具合の要因を特定するまでの緻密な思考手順について、詳しくお話をお聞きしました。

Jeep Commander(2006)エンジン不始動&メーター内警告灯点灯

イグニッションをONにしてもシフト位置を認識できず、クランキングも不可(スターターが回らない)という状態で入庫し、メーター内には「SERVICE 4WD SYSTEM」の表示と警告灯が点灯していました。

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メーター内の警告灯と「SERVICE 4WD SYSTEM」表示

1次分析(初期症状と一次診断) 使用機器 THINKCAR MasterX

システムチェックを行うと、システムトポロジ上でPCMとTCMがグレー表示となっており、通信不可の状態でした。他ユニットにも通信エラーが記録されており、以下のDTCを確認しました。

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システムトポロジ(PCM/TCMが通信不可)

周辺モジュールのエラーはあくまで「受け側エラー」であり、今回の主因はPCMおよびTCM系にある可能性が高いと判断しました。 一次点検として配線図を基にPCMの電源とアースを確認しましたが、異常は見られません。

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PCMコネクタ(切り離し状態)

また、DLC(データリンクコネクタ)の6-14ピン間の終端抵抗を測定したところ、約60Ωであり、CANバス全体としては一見正常に見えました。 この時点では「PCM本体不良の疑いが高い」と考えられましたが、まだ「PCM単体故障」と断定はせず、再検証を行うこととしました。

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DLCにて終端抵抗を測定(約60Ω)

2次分析(CAN再検証とPCM交換判断)

「通信不良=即配線断線」という思い込みをリセットし、測定条件を見直して負荷をかけた状態での確認を行いました。バルブ負荷をかけたクローズドサーキットで電源・アースを再測定したところ、約14Vで安定しており、電源供給そのものは正常であると判断しました。

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負荷をかけた電源測定

続いてCANラインの再確認を行いました。 PCM側のCAN-H / CAN-L間の抵抗を測定すると約120Ω。一方、DLC 6-14間は相変わらず約60Ωです。PCMのCANとDLC 6-14間の導通が見えず、一見すると「PCMがCANに繋がっていない」ように見えます。

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PCM側CAN-H/CAN-L間抵抗

しかし、ここで考え方を整理しました。 トポロジーを見ると、DLC側とPCM側でCANバスのセグメントが異なっている可能性があります。PCM側セグメントの終端抵抗の1個を「PCM自身が内蔵している構成」であると考えれば、PCM側で120Ωが見えても配線断線とは限らないと説明がつきます。

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トポロジーでは複数のCANライン構成が存在

不具合の原因を特定

ネットワークを使い、中国経由で手配した純正新品のPCMが到着したため、新しく来たPCM単体のCAN-H / CAN-L間の抵抗を測定しました。 結果は「約60Ω」。先ほどの推測が正解であり、PCMセグメントの終端抵抗のうち1個はPCMに内蔵されていることが判明しました。これにより、車両側の配線異常よりも「PCM本体不良の可能性が高い」と最終判断を下しました。

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左-故障PCM/右-新品PCM

部品交換後、シフト認識が復帰し、4WDエラー表示も解消。スターターは回るようになりましたが、エンジン始動までには至りませんでした。

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交換後メーター(4WDエラー消灯)

交換後に残った問題と最終対応(VIN書込・アクティベーション・ETC学習)

PCM/TCMの通信は復帰したものの、診断機上でVIN(車両識別番号)が「???」と表示され認識できませんでした。

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VINが???表示の警告メッセージ(他診断機でも同様)

交換したばかりのPCMはそのままでは始動条件を満たしておらず、VIN未書込およびキャリブレーションコードが北米仕様のままであることが原因でした。

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他診断機(Bosch)でもVINを認識できない状態

現車でのアクティベーション作業が必要と判断し、国内側と中国側で認識をすり合わせ、中国から機材を送付してもらってリモートでアクティベーションを実施。正しいVINと日本仕様のキャリブレーションを書き込みました。

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VIN書込後のECU情報(Currentに正しいVINを確認)

最後に、診断機の特殊機能からETC(電子スロットル)の学習を実施。学習完了後に再度システムチェックを行うと、PCM/TCMともに緑表示(フォルトコード無し)となり、無事にエンジン始動OK、走行テストもOKとなりました。

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ETC学習完了後のトポロジ(PCM/TCMが緑表示、フォルトコード無し)

振り返り・フィードバック

供給終了となっているPCMの診断においては、「通信不良=即配線断線」と決めつけないことが非常に重要です。今回のケースでは、

  1. CANセグメントの違いを理解すること
  2. VINの書き込み
  3. 正しいキャリブレーションと学習

の3点が修理におけるキーポイントとなりました。修理完了まで4か月超を要しましたが、最終的に無事車両を復帰させることができました。

編集後記

本文中の段階的なトラブルシューティングに関する内容は、すべて須藤様の主体的な分析に基づいて構成いたしました。深い洞察と豊富な経験に基づく技術力、各種テスターやグローバルなネットワークを巧みに駆使し、粘り強く原因を突き止めて故障判定・復旧されるお姿に改めて感銘を受けました。
複雑化する現代の車両ネットワークにおいて、単なるエラーコードの読み取りにとどまらず、システムの構造(トポロジー)やモジュールごとの特性まで深く考察する須藤社長のプロフェッショナルな姿勢は、多くの整備士の方々にとって大きな学びとなるはずです。須藤社長、貴重な事例をご共有いただき誠にありがとうございます。
TCJは引き続き、整備の現場に役立つ製品とサポートを提供してまいります。

有限会社須藤ヂャイアント商会

有限会社須藤ヂャイアント商会

自動車特定整備事業者(認証番号 仙陸認 第1-5181号)
自動車整備技術集団「メカトロクラブみちのく」会員

事業内容
車検、一般整備、故障診断、コーディング、ボディメンテナンス、ロードサービスなど
所在地
青森県黒石市追子野木1-67-4
Webサイト
https://www.s-giant.com/

※本文中の掲載写真にはTCJ以外の製品を含んでいます(故障の探求に使用したテスターや検査機器など)

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