ポルシェ911(991.1)エンジン不調&エンジン警告灯点灯
走行時は問題ありませんが信号待ちなどでエンジンが振れて調子が悪く、エンジン警告灯も点灯したとのことで入庫しました。システムチェックを行うと、DMEに以下のフォルトがストアされていました。
バンク2(4・5・6)にて点火不具合を確認したいと思い、DMEよりデータストリームを開きました。すると、シリンダ2が2個あることを確認しました。
詳細画面を開くと、やはりシリンダ2がダブっていることが確認できます。
これでは適正診断ができません。(ソフト不具合を確認。改善必須項目となります)
このダブりを前提にフォルトを確認すると、以下のDTCを確認できました。
須藤ヂャイアント商会 須藤様の1次分析
どうやらリッチバーンによる片バンク全てのミスファイアの症状が出る条件を調べていくと以下を確認できた。
- 冷間時からエンジンスタートし、暖機完了後に空吹かしすると症状が発生
(空吹かしをせずアイドリングを継続していると症状出ず) - 1と同条件のもと、空吹かしではなくゆっくりエンジン回転数を上げると症状は出ない
- 症状発生中にエンジン回転数を2,000~2,500rpmまで上げるとミスファイアは止まる
- 一度症状が発生すると、エンジンをリスタートしても症状は継続して発生
- 症状発生後に3~4時間程度エンジン停止で放置すると症状が出なくなる
- バンク2ラムダセンサの配線をカットしても1~5の症状は変わらず
TCJ CSフォルトDTC分析
フォルトを確認すると、以下のDTCが確認できました。
エンジン制御モジュール (ECM/DME)
7件の問題が存在します。
- P0175 システムが過度にリッチ(バンク2) Below exceeded
- P1381 バルブリフトコントロール – 片バンクのリフト不正 Implausible signal
- P0306 ミスファイア、シリンダ6 Limit exceeded
- P0304 ミスファイア、シリンダ4 Limit exceeded
- P0305 ミスファイア、シリンダ5 Limit exceeded
- P0300 偶発的/複数回のミスファイアを検出 Limit exceeded
- U0418PSMコントロール・ユニットの故障メモリの内容を点検しますLimit exceeded
変速機制御モジュール (TCM/PDK)
2件の問題が存在します。
- P199A エンジントルク値不正No fault symptom
- U0418PSM コントロール・ユニットの故障メモリの内容を点検します No fault symptom
インストルメントクラスター(IC)
2件の問題が存在します。
- 00A008 警告:PSMの故障 Active
- 00A016 警告:エンジン点検 Active
電動パワーステアリング(EPS)
1件の問題が存在します。
- C12085 PSMコントロール・ユニットの故障メモリの内容を点検します Active
電子安定性プログラム(ESP/PSM)
1件の問題が存在します。
- 007010 エンジン・コントロール・ユニットの故障メモリを点検します Active
上記のDTCを分析すると、初めにECM/DME(エンジンコントロールユニット/デジタルモーターエレクトロニクス)からバンク2側の燃調のズレから過度に濃い燃料噴射を検出していました。次に、バルブリフトコントロール(Vario Cam Plus)片バンクにリフト不全が発生し、これにより6・4・5の順にミスファイア(不点火)→不規則かつ複数回のミスファイアを検出。P0175, P1381, P0306, P0304, P0306, P0300のPコード組成となり、CANを通じてU0418を連出。PSM C/U故障メモリの内容点検(PSM Porsche Stability Management)につながり、適正なトルク制御がなされないためにステアリング(オーバー/アンダーステア補正)トラクションおよびスタビリティに不全が起きることが想起されます。
次にTCM/PKD(トランスミッション/デュアルクラッチ)について、PKD(ポルシェドッペルクップルング)からP199Aエンジントルク値不正を検出。ここでもU0418、つまりスタビリティコントロールの不具合につながると見て取れます。
この先のDTC分析ですが、IC/インストルメントユニットに2件のフォルトを確認しました。00A008「警告:PSMの故障」と00A016「警告:エンジン点検」となり、表示にアクティブとあるため、常に上記DTCがDME、TCM/PDKにあることを計器/メーターを通じMIL故障警告灯(Malfunction
Indicator Lamp)の点灯によりユーザーに示していることを表しています。
EPS C12085 PSMコントロール・ユニットの故障メモリの内容を点検
ESP/PSM 007010 エンジン・コントロール・ユニットの故障メモリを点検
上記2件(EPSおよびESP/PSM)のフォルト解析から、この場合はいずれもP119Aに起因したE/Gトルク値不正により連動し、安定制御に問題が生じるとの関連警告と考えられます。
須藤ヂャイアント商会 須藤様の2次分析(その他分析機器等使用)
まずはフォルトコードを消去し、現状で症状発生時に何がストアされるかを確認したところ P0175、P0300、P0304、P0305、P0306がストアされた 不具合原因としてはリッチバーンによるミスファイアだと推測し、片バンクだけリッチバーンになる原因を探るべくライブデータ解析をすると、排気ガス値は症状発生の異常時にはやはりリッチバーンになっている 。
また症状発生時の点火波形を観測するも変化は見受けられない
やはり空燃比系統の異常と判断した。
空燃比を変化させるもので両バンク共通のもの(マニホールドプレッシャーセンサ、水温センサ)とバンク毎にセパレートなもの(インジェクター、IGコイル、プラグ、バリオカムソレノイド、ラムダセンサなど)に切り分けて分析を実施。コンプレッションに関してはアイドリングが調子良いことや症状発生時の特定の回転数で症状が改善することから一旦不具合の原因から除外、同様にセパレート部分のインジェクター、IGコイル、プラグなども一旦除外する。
ラムダセンサはバンク2の動きが多少不安定ですが、原因と特定するには至らず。
バリオカム(可変バルブタイミング)に関してはバンク2の動きがバンク1に比べて少し大きいものの、角度にして0.4° 程度なのでリッチバーンの原因になるとは思えない。
症状発生時のラムダコントロールのライブデータを見ても、リッチバーンには見えない。
何一つエンジンパーツの確認ができない車両だが、エアクリーナーケースを外せばかろうじて4番のインジェクターのコネクタが見えたので4番の噴射波形を取ってみる、すると正常時の噴射時間は約1.2msで症状発生の異常時の噴射時間は1.0msになることがわかった。
ラムダセンサやプラグ&コイルの点検をしようと思いましたが、錆がひどく、折れた場合のことを考えると、おいそれと手は掛けづらい状況のため後回しと判断。
現状では手詰まりとなったので、お客様にラムダセンサバンク2の交換の了承をいただき、ラムダセンサの可能性を排除することとした。
取り外したラムダセンサは煤で汚れていて、リッチバーンしている可能性が高くなる。 TCJと連携しているNECネッツエスアイ社の「整備ナビゲーションサービス」よりエンジンデータを入手し、同時に自分でもいろいろと資料を探す。バリオカムプラスは991.2のターボからだと思っていたが、どうやらこの車両にもバルブリフト機構が付いているらしいことがわかった、ラムダセンサバンク2を新品と交換したがそこまでの改善は見られず、、。
その後、TCJのコールセンターより「ポルシェのプログラムではなく、グローバルOBDの解析の方がわかりやすいのでは」という助言を得て、グローバルOBDにてラムダセンサ交換後のコントロールデータを見ていくことにしました。
ラムダセンサを確認すると。
EOBDソフトを確認すると、「短期フューエル修正ーバンク2」の値が「-25%」と表示されており、リッチバーンしていることがわかる。若干、腑に落ちない点* があるものの、バルブリフトソレノイドの可能性が高くなった。
*腑に落ちない点
- そもそもアイドリングのバルブリフトはローではないのか?
- 1だとした場合、ローから変化しない、またはハイからローに戻らないと、ラムダコントロールはどちらかと言うとリーンバーンになるのではないのか?
- リッチバーンだとしたらリフト量ハイの時、ローになっている以外ないのではないか?
何とか、遮熱板を外し、バルブリフトセンサをバンク1とバンク2で入れ替えてみる。
(なお、ソレノイドの抵抗値は左右共に約9Ω程度だった)
バルブリフトソレノイドを入れ替えると、リッチバーンがバンク2からバンク1に移動したことを確認できた。
不具合の原因を特定
以上のことから今回の原因はバンク2のバルブリフトソレノイドだと判断した
またバンク2が正常になったので噴射時間を再確認するとアイドリングからの空吹かしで噴射時間が約1.2msから約1.5msへ延びていることもわかった。
推測だが始動からのアイドリング時と一度アクセルオンにした後では噴射制御時に(ラムダコントロール)が変わるようだ。
各データを再確認した上で、バルブリフトコントトロールソレノイドBK2側とHO2Sの交換にて今回の修理を完結できた。
振り返り・フィードバック
Master X Porsche Vr10.46を使い、不具合事象の確認からCAN連携によるフォルトメモリーを確認。故障の全容を把握し、大筋で整備の進展を把握することができたと須藤様からポジティブなフィードバックをいただきました。
一方、データストリームのVr10.46の不具合(2番シリンダの重複表示)について、すべてのTCJ故障診断製品に備わるフィードバック機能を通じて、弊社開発にこの問題をご指摘いただきました。適正なデータ読み取りに向けて早急に対応を行い、次回更新時(2025年11月)に改善することをお約束させていただきました。
編集後記
本文中の段階的なトラブルシューティングに関する内容は、すべて須藤様の主体的な分析に基づいて構成いたしました。深い洞察と豊富な経験に基づく技術力、さらに各種テスターや検査機器を巧みに駆使し、的確に故障判定されるお姿に改めて感銘を受けました。
今回取材の終わりに、「最近の車の故障診断を行う場合、診断検査過程でのライブデータの解析はもちろんですが、最低でも入口と出口で使える診断機が必須だと思います。世の中に様々な汎用診断機がありますが、その中でもTCJ・THINKCARの診断機は使い勝手が良く、サポートも充実しているし、一方通行ではなくこちら側の意見も伝えられるので、整備士にとってはありがたい診断機だと思います」という嬉しい言葉をいただきました。須藤社長、ありがとうございます。
TCJは引き続き、整備の現場に役立つ製品とサポートを提供してまいります。
有限会社須藤ヂャイアント商会
自動車特定整備事業者(認証番号 仙陸認 第1-5181号)
自動車整備技術集団「メカトロクラブみちのく」会員
- 事業内容
- 車検、一般整備、故障診断、コーディング、ボディメンテナンス、ロードサービスなど
- 所在地
- 青森県黒石市追子野木1-67-4
- Webサイト
- https://www.s-giant.com/
※本文中の掲載写真にはTCJ以外の製品を含んでいます(故障の探求に使用したテスターや検査機器など)